織物

1.

独り寝の床で、(わたし)はしずかに目を閉じる。綴じ合わされた目蓋のあたりに、(わたし)をさぐる…。

ちりぢりになった(わたし)をかきあつめようと、(わたし)は唇をきゅっと結ぶ。結び合わされた唇のあたりに、たしかに(わたし)はいる…。

脇をしめ掌を合わせたときにはそれに小刻みな振動をさえくわえ、(わたし)は祈る。密着したもやもやとした「肉」のその地帯に(わたし)は(わたし)をせいいっぱい縫いこめる…。

「肉の森の中へー「野生の感性学(aesthetica)」試論ー」梅原賢一郎 http://homepage2.nifty.com/mono-gaku/umehara.htm

 

2.

密閉された袋である、こうしたものすべて、そこに入るのは汲みとられたものだけ、出るのは追い払われたものだけ。この肺、この腸、この袋。この生きた気泡はぼくに属していず、けっしてぼくに属することはあるまい。その頑丈な部屋の内部では数々の思考や欲望が、想像が、夢が、思いつきが生まれる。それはぼくではない。それは一人の女、何百万の女の中の女だ。それは知られえず、理解されえない。この生命はそれ自体に閉じられている、その時間およびその世界に。

「意識」『無限に中くらいのもの』ル・クレジオ

2.

もう一つのこれまた情熱に関わる原動力、それは他者の欲望に盲目的にすがりつきたいという密かな欲望である。ソフィが自分の家で順番に八時間ずつ眠るよう人々を誘うとき、彼女は自分の暮らしから身を引き、そこに他者の暮らしを導き入れる。・・・あなたの人生については別の誰かが考え、その誰かの人生についてはまた別の誰かが考えてくれるというわけで、そうした連鎖のうちに疎外は完全に克服されるのだが、というのもそのときにわれわれはもはや互いの時間、眠り、自由、人生を盗みあう必要はないからだ。

『プリーズ・フォロー・ミー——「ヴェネツィア組曲」のために』ジャン・ボードリヤール、ソフィ・カル『本当の話』に収録