想像

今日は大阪市放射能汚染がれき焼却日(試行)ということで、FBやブログなどでは、とてもきめ細かな情報が発信された。

たとえば、外出時は専用のマスクを必ずすること、なければ普通のマスクを二重にして、内側に濡らしたティッシュを入れること。帽子や眼鏡をして、なるべく肌を露出しないこと。帰宅後は衣服から放射線物質を拭き取り、拭き取った布は必ず処分すること。室外の空気が入らないようにすること。もちろん洗濯物は室内干し。などなど。

 

これらのことを徹底させる勇気と切迫感と丁寧さを抱くところまで到達していないわたしだけれども、みえないものがふわふわ浮いているんだよ、ということを事実として受け取れるよう。

 

そして、改めて、川上弘美さんの『神様2011』を読み返した。

 

「では」

 と立ち去ろうとすると、くまが、

「あの」

 と言う。次の言葉を待ってくまを見上げるが、もじもじして黙っている。ほんとうに大きなくまである。その大きなくまが、喉の奥で「ウルル」というような音をたてながら恥ずかしそうにしている。言葉を喋る時には人間と同じ発声法なのであるが、こうして言葉にならない声を出すときや笑うときは、やはりくま本来の発声なのである。

「抱擁を交わしていただけますか」

 くまは言った。

「親しい人と別れるときの故郷の習慣なのです。もしお嫌ならもちろんいいのですが」

 わたしは承知した。くまはあまり風呂に入らないはずだから、たぶん体表の放射線量はいくらか高いだろう。けれど、この地域に住みつづけることを選んだのだから、そんなこを気にするつもりなど最初からない。

 

川上弘美『神様2011』34-35頁