カエルオールナイトピクニックに行ってきました

カエルオールナイトピクニックに行ってきました。

一年で最もカエルたちが切実な鳴き声を響かせる時期に、彼らの鳴き声に耳を傾けるという集まりで、ジャワ舞踊家の佐久間新さんがされているものです。佐久間さんが住んでおられる能勢の山間にある棚田付近、夜から朝まで行われました。

 

夜間散歩一回目は夜9時過ぎ。

参加者みんながくつろいでいた佐久間さんのお家の、すぐそばの棚田へと向かう。

すでにカエルの鳴き声は充分耳に届いているけれど、棚田に近づくにつれ、より迫ってくる感じ。農道を進むと、特定の方角からなにやらガタッゴトッ、という音が聞こえる。電車が走る音にそっくりの低音。方向によってカエルの鳴き声のトーンや声質がちがい、とてもにぎやか。

 

畦道のY字路にて。

「ここからは各々散策してみましょう。」と佐久間さん。

夜の棚田を一人で歩く。

先ほどは、わたしたち7人の人間の存在に、カエルたちは鳴き声を止めていたけれど、たった一人で歩くと、鳴き声をやめたそのカエルの気配を感じる。ここではカエルも人間も対等に存在している。しばらくじっと佇んでいると、カエルの方からまた、鳴き出すことを始めた。

 

佐久間さんが畦道の渕にそって、地面にからだを横たえているのを発見したので、郷に入っては郷に従えで、わたしも自分の場所で横たえてみる。地面と同じ位置から耳に入ってくる音は、思いのほか静かだった。

 

でも、立ち上がると、もとの大音響カエルオーケストラがそこにある。棚田の段々のお陰で、耳の位置によって拾われてくる音が変わるみたい。

 

棚田には少し離れたところにしか街灯がないのに、不思議と暗闇を感じなかった。曇りだったのか、星はなかったけれど、むしろ夜空全体が明るかった。見上げると、空と山際とのシルエットが浮かぶ。そして、上の方の棚田のかたちも、すぐそばの雑草も、光源がなくても、ちゃんと視ることができる。

それは、すべての色が吸収されているグレースケールの世界。草の緑は濃く深いグレー。新芽や花弁は輝くような明るいグレー。

はじけそうな新芽に、自分の手のひらを沿わせてみると、自分の手のひらも同じく明るいグレーになっていた。昔話にある闇夜に変身とは、こういうことなのかもしれない。  

その手を、今度は遠い山際に沿わせてみる。

棚田の段の傾斜にからだを横たえると、ただただ埋もれていたいような感じがしてきた。

いちいち確かめという作業を行う。ああここは空間だなあと思う。

 

みんなで場所を移動する。今度は道の反対側の、すこし下ったところにある棚田。水路があって、先ほどよりも水っぽい感じがする。

カエルの鳴き声も、からりん、ころりん、と喉の鳴らし方が別物。

外に出てもう1時間くらい経っていたのかもしれない、少し冷えてきた。お布団があったら、ここで寝てしまいたい。山の民、サンカの人たちのことをちょっと考える。

 

お家に帰って休息。おしゃべりしたり食べたり飲んだり、そして仮眠。

 

2回目は4時。

4時の空気は明るいのだか暗いのだかまだ判別がつかない曖昧な感じ。

でも、カエルの鳴き声は明らかに別の段階に入っていて、静かなざわめきが、棚田の高い位置からグラデーションのように繊細にきこえる。

1回目の深夜の活発で精力的な鳴き声とちがって、朝明け寸前の力みが抜けた鳴き声だった。

 

 

「はい、今ので今日のは終わりましたね。」とカエルオールナイトピクニックの終演をつげる佐久間さん。

正直わたしにはその終点がよくわからなかった。

でもその直後、あたりは着々と明るくなりだし、鳴き声はカエルから鳥たちに交代されていった。

 

 

明るくなると色々な情報に出会ってしまう。

たとえば、足許には案外毛虫がいっぱいいたのだなあ、とかああこんあところにクモの巣が、ペチャンコになったカエルが、とか。世界は決してロマンチックにはいかないというオチがついたけれど、眠さもあってかそれも良しという気分になっている。

    

みんなで別の棚田へ移動する。先ほどよりも、林に近い。農家のおじさんは、既に作業中。

 神社の裏手に水源がある。小さい岩から水が湧き出ていて、飛鳥の遺跡みたいなかたちをした浅い堀にその清水が溜まっている。

その水面にそっと手のひらをのっけてみる。水が手のひらに吸い付く。手のひらをそっと上にあげると、吸い付いていた水はたっぷといって離れる。豆腐水のようだ。そろそろ朝ご飯。