夜間歩行者

例のE坂から自宅まで、音を消して歩いてみた。

家々の音、地下に流れる下水道の音が、よく聴こえてくる。

一歩一歩慎重に歩かないと、衣擦れや靴が地面に触れる音が出てしまう。

だんだん、自分が透明人間になったような気がして、怖くなってくる。

信号を渡るときに前半で青が点滅になって、後半で赤になったので、轢かれないようひやひやした。

えんま堂の前を通る時、「決して振返ってはならない」という、昔話などに出てくる掟のことを思い出す。

 

同時に、小学生のときの通学路を思い出した。

それは、道幅がとても広く、ガードレールでがっしり囲っているほんの15m程の変なスポット。いつの日にか、その歩道でカエルがぺちゃんこになって死んでいたので、みんながカエルに呪われるといって避けるようになった。次第に、「息を止めてつっぱしればOK」とか、「タンマ(親指を隠してグー)して走ればOK」とか、妙なルールができていた。

 

ようやくもうすぐ家だ!という辺りで、シーズが人と一緒に散歩しているのに出くわした。こちらは音を立ててはいけないので、相変わらずゆっくり歩く。あまりにゆっくりなので、抜かされてしまったが、シーズはこちらが気になっている模様。飼い主に叱咤されながら、何度も振返るシーズに、夜間歩行者としてのシンパシーを感じた。