豆翁のこと

大阪のとある喫茶店。名前が豆翁。

70歳は超されているであろう女主人がひとりで切り盛りしている。店内は、カウンター席と社長席に分かれていて、社長席にはいつも誰かえらそうなおじさんと、そのナンバー2といったタイプの人が座っている。

私たちはいつもカウンターに座る。常連さんではないので、幾分遠慮していたが、女主人はさほど気にした様子はなかった。

豆翁の珈琲は一杯300円。その旨さは、他の珈琲とは格別に何かが違っている。珈琲ではなく、「豆翁の珈琲」なのだ。もっともおいしい飲み方は、砂糖を二杯入れる。珈琲に砂糖を入れると妙に苦みがでてくることがあるけれど、ここはそうではない。珈琲自体があっさりしていて、そこに砂糖を入れると円やかになる。渋みや苦みはいっさいない。この味は、むしろお茶の分野にカテゴリーできるのではないかと、私は強く思っている。

ふいに女主人が話しかけてくる。「毎晩豆の芽をとるんですよ。これがいちばん嫌な作業。いちばんいややけどやるんですよ」といって豆の芽をみせてくれる。

この老女が夜な夜な珈琲豆の芽を摘むところを想像する。妖怪のようだ。

 

 

豆翁の不思議

その1 豆翁というネーミング

その2 コールドコーヒーとアイスドコーヒーがある

その3 カウンターの中の作業台に「財宝」という名のミネラルウォーターのペットボトルがある

その4 食器類がとても高価